■ 目次
③ 認知症の方との接し方
1.残存機能維持の意識
2.安心感を与えるコミュニケーション
3.本人の尊厳を守る関わり
■ 認知症とはどういうもの?
脳は、私たちのあらゆる活動をコントロールしている司令塔ですが、それがうまく働かなければ、精神活動も身体活動もスムーズにいかなくなります。
認知症とは、さまざまな原因で脳の細胞が損傷や破壊されてしまったり、働きが悪くなったために障害が起こり、およそ6カ月以上、生活するうえで支障が出ている状態を指します。
認知症を引き起こす病気のうち、もっとも多いのは、脳の神経細胞がゆっくりと死んでいく「変性疾患」と呼ばれる病気です。アルツハイマー病、前頭・側頭型認知症、レビー型小体病などがこの「変性疾患」にあたります。
続いて多いのが、脳梗塞、脳出血、脳動脈硬化などのために、神経の細胞に栄養や酸素が行き渡らなくなり、その結果その部分の神経細胞が壊死し、神経のネットワークが壊れてしまう脳血管性認知症です。
■ 認知症の方の心理
認知症は、人により症状や進行度がまちまちです。
認知症の進行の仕方や周辺環境、元々の性格により、困りごとや言動には当然違いがありますので一概には言えませんが、認知症の方は「わからなくなっているご自身」に対し、漠然とした不安を抱えていることが多いです。
認知症の症状に最初に気づくのは本人です。家事や仕事がスムーズにできなくなる、簡単にできていたことを失敗することが徐々に多くなり、「おかしい」と感じ始めます。こういったことが重なり続けていくと、多くの人は大きな不安を感じ始めます。
人によって、認知症を心配し抑うつになってしまったり、認知症を認めたくなくて周囲が自分を陥れようとしているのだと妄想的に思い込む人などもいます。
認知症になったのではないかと不安になり、苦しく悲しい気持ちを一番感じているのはご本人です。
介護者はその気持ちを理解し寄り添うことが大切です。
■ 認知症の方との接し方
認知症の方との関わりで特に意識したい大切な点は下記3つになります。
- 残存機能維持の意識
- 安心感を与えるコミュニケーション
- 本人の尊厳を守る関わり
1. 残存機能維持の意識
認知症の進行予防には、残存機能維持の視点を持つことが大切です。
残存機能維持のための生活リハビリというと難しく考えられがちですが、生活の一部として、トイレの立位保持はご自身で継続してもらったり、家事・掃除・整理整頓・洗顔などの身だしなみを整える行為等を継続して実施してもらったりするなど、ご自身の負担なく続けられるようなものが理想的です。
全てに手を出していくのではなく、ご自身ができることはやっていただく精神で温かく見守るようにしましょう。
特にグループホームは認知症対応型の介護施設であるため、生活リハビリを取り入れていることが多いです。
事業所で行っている生活リハビリに合わせて、残存機能維持をサポートしていくようにしましょう。
2. 安心感を与えるコミュニケーション
認知症の方は、わからなくなってしまっている状態を理解されていることも多く、漠然とした不安を抱えています。
フロアを行き来されたり、暴言を吐いたりされるのも、不安や感情の乱れなどが原因の可能性もあります。
そういった気持ちを理解し、優しく言葉をかけることを意識しましょう。
コミュニケーションには下記のような態度や声掛けがおすすめです。
- 「そうなんですね」と肯定するような相槌
- 「大丈夫ですよ」と安心させる言葉
- 笑顔での挨拶やたわいもない世間話
同じ話を聞くことは根気のいることですが、嫌な顔をせずに「大丈夫ですよ」と安心させる態度と声掛けでご本人の気持ちが落ちつくこともあります。
大切なのは私達ワーカー側が認知症の方の行動背景を理解し、それに沿った関わりができることです。
3. 本人の尊厳を守る関わり
当然ですが認知症の方も尊厳を守られるべき一人の人間です。
ご本人にも当然プライドがありますので、尊厳を傷つけるような赤ちゃん言葉や侮辱するような言い方は絶対にしないようにしましょう。
特に下記のことに注意して関わりを持っていただくと良いと思います。
- 敬語を使う
- ドアをノックする、羞恥心に配慮するなどプライバシー保護を意識する
お互いに気持ちの良い関わりができると、ご利用者様や事業所様に喜ばれるだけでなく、ワーカー様ご自身に楽しくお仕事をしていただくことにも繋がります。
ご自身の優しさを活かして、ぜひご利用者様に安心感を与えるような関わりを実施していってください。
■ 認知症の症状
認知症による症状は、大きくわけて下記の2種類です。
中核症状 | 脳の細胞が壊れることによって直接起こる症状が記憶障害、見当識障害、理解・判断力の低下、実行機能の低下などです。これらを中核症状と呼ぶことがあります。中核症状の影響で周囲で起こっている現実を正しく認識できなくなります。 |
周辺症状 | 本人がもともと持っている性格、環境、人間関係などさまざまな要因がからみ合って、うつ状態や妄想のような精神症状や、日常生活への適応を困難にする行動上の問題が起こってきます。これらを周辺症状と呼ぶことがあります。 |
このほか、認知症にはその原因となる病気によって多少の違いはあるものの、さまざまな身体的症状もでてきます。
とくに血管性認知症の一部では、早い時期から麻痺などの身体症状が合併することもあります。
アルツハイマー型認知症でも、進行すると歩行が拙くなり、終末期まで進行すれば寝たきりになってしまう人も少なくはありません。
1. 中核症状について
認知症は中核症状によって、日常生活に支障をきたしてしまうような周辺症状を起こしてしまうことがあります。
認知症の中核症状は、大きく下記の5つにわかれます。
記憶障害 | 記憶障害とは、 自分の体験した出来事や過去についての記憶が抜け落ちてしまう障害で、時間の経過と共に症状が進行します。 人は年を取れば誰でも物の覚えが悪くなったり物忘れが増えたりしますが、認知症では覚えること自体ができなくなります。 |
見当識障害 | 見当識障害とは、時間の感覚や季節感、日付や年号などがわからなくなってしまうことです。具体的な症状としては、「自分のいる場所がわからない」「予定に合わせて準備ができない」「季節感のない服を着る」「今日は〇年〇月〇日が答えられない」などがあります。また、症状が進行すると「迷子になる」「トイレの場所がわからなくなる」等の症状も見られます。 |
理解・判断力の障害 |
以下のような理解・判断力に影響が出ます。
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実行機能障害 | 認知症になると、計画を立てたり対応したりすることができなくなり、日常生活がうまく進まなくなります。 |
感情表現の変化 |
認知症の人は、ときとして周囲の人が予測しない、思いがけない反応を示します。 些細なことで怒ったり、泣いたり、喜んだりするようになります。 |
2. 認知症の周辺症状
中核症状によって起こる周辺症状は下記になります。
徘徊 | 行き先がわからなくなる、時間や場所がわからなくなり、歩き回る症状のことです。不安から徘徊をされる方も多いため、安心させてあげることで落ち着く場合もあります。 |
幻覚・錯覚 |
実在しないものを実在するかのように体験する「幻覚」や、実在するものを事実と違ったものとして認識する「錯覚」も周辺症状のひとつです。 認知症機能の低下によって起こります。 幻視は「(実際にはいない人が)話しかけてくる」と話すなど、視覚上の幻覚です。ほかに幻聴、幻味、幻臭、幻触、体感幻覚などもあります。 |
睡眠障害 |
高齢になると、睡眠時間が短く眠りが浅くなりやすいほか、夜間にトイレが近くなって何度も起きるなど、熟睡しにくくなります。 さらに認知症になると、ベッド上で過ごす時間が長くなり、体内時計の調節がうまくいかずに睡眠のリズムが崩れやすくなります。 その結果、不眠や昼夜逆転といった睡眠障害が現れる場合があります。 |
介護拒否 | 認知機能の低下により、介護の意味を理解できない、異性に介護されることへの羞恥心が強い、自立心が高い、不快な体験をしたなどが原因などで、介護を拒否されることもあります。また、声掛けが不十分であると、状況が理解できずに恐怖心から拒否をされるパターンもあります。 |
妄想・せん妄 |
よく見られる「物とられ妄想」は、記憶が抜け落ちてしまい、自分がしまい込んだ、置いたことを忘れてしまった結果、身近な人に対し「盗まれた」という疑いの目を向けることがあります。 また、体調や環境の変化によって、幻覚を見る、時間や場所がわからなくなる等の「せん妄」なども見られる場合もあります。 |
他には、認知機能が低下することで、できないことが増えた自分に不安を感じたり、気分が落ち込む抑うつ状態が見られる場合があります。
意欲がなくなってしまったり気持ちが不安定になってしまったりと、自身で感情がコントロールできなくなってしまうのです。
また、場合によっては、認知症の進行により、抱える不安や苛立ちなどをコントロールできなくなり、怒りっぽくなり暴言や暴力などで気持ちを表現する人もいます。
脳に障害を受けている影響で、思うように言葉を伝えられないもどかしさ、不安、不満、いら立ちを抑えきれず、暴言・暴言となって現れます。
穏やかな性格だった人が、認知症になってから人が変わったように怒りっぽくなったり、暴れたりする場合もあります。
そういった心理状態を理解し、気持ちに寄り添った対応が必要となります。